はじめに
八王子市アマチュア無線クラブの発展と将来の技術者育成の一助として、新制度である「アマチュア無線の交信体験運用制度」の施行に伴い、八王子市内のイベントに参加して実際に運用体験をイベント参加者の方々に行っていただける機会を設けました。
今回の活動について総括しましたのでご紹介します
体験運用をどのように制度趣旨に沿って対応すべきか悩みを抱えているクラブ局や団体の皆さまにも役立てられること、また、互いの体験運用制度活用の一助になれば幸いです。
なお、本ページの内容はJI1NQG 桑原さんが作成された総括資料の内容をご紹介するものです。
オリジナルのPDF版はここからダウンロードしていただけます。
※編集可能なパワーポイント版もご用意していますので、必要な方はこちらからお気軽にご連絡いただき、是非ご活用ください!
(パワーポイント版ではシナリオカードや受付票、交信証のOfficeデータファイルも含まれています)
体験運用実施の目的
当クラブの発展と将来の技術者育成の一助として
アマチュア無線は、無線を使ったコミュニケーションと技術探求の趣味として、子どもからシニア世代まで幅広い方が楽しむことができるものであり、また、無線通信技術の中でも一番身近に触れることができることから、入門レベルのIoTやワイヤレス技術の知見を「体感的に」身につけることができるものと言われています。
今後、ますます電波の重要性が高まっていく中、アマチュア無線を活用したワイヤレス人材育成の裾野を広げるため、アマチュア無線を「ゆりかご」に、電波の楽しさ・大切さ・使う責任を学び、協調性や感覚的に電波の伝わり方を身につけた青少年が、将来グローバルに活躍する技術者・研究者へと育っていくことを期待されています。【総務省総合通信基盤局電波部移動通信課「ワイヤレス人材のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正①」を参照・抜粋】
八王子市アマチュア無線クラブ(以下、八王子市AMC)では、青少年が私たちがアマチュア無線で初めて交信したときの感動を共有し、地域の人や無線通信よるコミュニケーション、無線の不思議で奥深い体験から、将来の電気電子技術者・研究者を目指す一助となること、また当クラブの発展を目的に「体験運用」の制度趣旨に沿った取り組みに賛同し参加、協力するものです。
本資料を活用
この資料は、2023年3月22日に告示された直後の週末に、アマチュア無線体験運用を行った際の手順をまとめたものです。告示直後で情報が少ない中、手探りで2回の体験運用を行いました。この体験運用の取り組みをドキュメント化し、八王子市AMCのマニュアルとして、また今後の改善を容易にするため作成しました。
同時に、体験運用をどのように制度趣旨に沿って対応すべきか悩みを抱えているクラブ局や団体に対しても本資料をネット等で公開することで少しでも役立てられること、互いの体験運用の改善に期待して作成しました。
参加イベント概要・実績
当クラブが参加した一般の方を対象としたイベントとその実績
イベント名 | はちおうでぃフェス | 花見の会 |
日時/天候 | 2023年3月25日(土) 10:00-16:00 雨 | 2023年4月1日(土) 10:00~15:00 晴れ |
場所 | 東京都 八王子市 片倉つどいの森公園 | 同左 |
主催 | サイバーシルクロード八王子 八王子商工会議所 | 西片倉町会 |
来場者イメージ | アウトドア活動・ キャンプ好き層 | ファミリー層 |
体験運用者数 | 7名 | 14名 (6才〜59才) |
参加メンバー数 | 10名 | 9名 |
はちおうでぃフェス パンフレット
このフェスは初めての企画
あいにくの雨でしたが実行されました
花見の会 パンフレット
地元町内会の恒例イベント
(コロナ禍から今年復活)
運用詳細 体験運用
アマチュア無線 体験運用
目指すこと
- はじめて無線交信したときの感動を体験してもらうこと
- 地域の人や無線交信を通じたコミュニケーションの楽しさを体験すること
- 通信体験や無線の実験を通して、無線通信の不思議さ、面白さ、すごさを知ってもらうこと
- 電波利用にルールがあることを知ってもらうこと
- 体験運用によって達成感を持ち、次にチャレンジする気持ちを醸成すること
- 将来のアマチュア無線人材となってもらうこと
体験運用流れ
安易な無線交信体験だけで終わることが無いよう、体験運用の 楽しさ、無線技術の面白さが短時間で理解できる工夫を行う。
<全体の流れ> 約20分
受付 → オリエンテーション* → 交信練習 → 体験運用 → 交信証手交付
*オリエンテーションでは電波の使われ方、電波の交信実験、交信練習を行います
体験運用のやり方【工夫を含めた運営方法】
受付
<準備物>
- 受付票
- ホワイトボード
<受付方法>
- 受付票を記入してもらう
- 受付票は個人を特定した情報とならない範囲とする
- 名前はハンドルレベルで可
- 写真撮影の可否の意思確認を行う
- クラブホームページへの記載、雑誌投稿についての可否を明示
- 写真撮影については原則背後からとする
受付後、オリエンテーションと交信体験で使う体験者名の和文通話表をホワイトボードに書く
オリエンテーション
<準備物>
- オリエンテーション用シナリオ(↓実施方法をご覧ください)
- 簡単無線交信実験セット
- 和文通話表(ホワイトボード)
- マイク(PTTスイッチとしゃべり方の説明)
- 英文通話表、和文通話表(参考)
無線交信実験セットは
普通の「マブチモーター」
による花火通信風送信機
オリエンテーションが
誰でも同じ品質で対応
できるようシナリオ化、
紙芝居化
PTTボタンの訓練用に
マイクの準備も必要です
英文通話表
和文通話表
<オリエンテーション 実施方法>
アイスブレイク
子供たちの緊張を和らげる会話から入ります。
・工作体験してきたの?どんなところが楽しかった?
・さっきは電波の受信だけど、今度は電波を発信するんだよ
・おじさんの名前は○○です。きみたちは何年生?
・へぇ、今日から6年生か。新学期はなど
電波を使うためにはルールがあること伝えます。
でも難しい話だけじゃないことを知ってもらうため簡単な電波実験もあることを伝えます。
簡単なクイズをだします。
身近にあるものについてちょっと考えてもらいます。
交通系ICカードも入っています。
簡単ですね。
ぜんぶ「電波」を使っています。
でも一体電波ってなんだろうって疑問が
湧いてきます。
実は、電波ってとっても簡単に作れちゃうことを、電球のオンオフでイメージをしてもらいます。
でも、電波っていったい何だよってなります。
そこで実際に「電波」を出す実験をしてもらいます。
仕組みはカンタン。マブチモーターを回して出てくるノイズをAMラジオで受信する実験です。
マブチモーターは「ミニ四駆」で使っている普通のモーターだってことも伝えるとイメージが湧きます。
電鍵をたたくとAMラジオから「ビー」って音がでてきます。
実験装置から線がつながっていないラジオから突然「ビー」と音がすると、結構驚きます。なんとなく電波がイメージできてきます。
でもこれだけでは面白くないのでもう一つ実験をします。
講師役から質問をして、子供にYES,NOを「電鍵」で答えてもらいます。
<質問者>
「○○君はカレーが好きですか?」
<受講者>
「ビ~~~」
<質問者>
「○○君はカレーが好きだってことが
おじさんに伝わったぞ!」
簡単な仕組みで無線交信を行いました。ここで子供の中で気づきがあるはずです。これを複雑化したものがスマホや地デジになることを伝えます。
今実験した、電波を使って情報(気持ち)を伝えたことが、無線交信の基本であることを伝えます。
ここでこの後の体験運用の流れを説明します。
最初に伝えないのは子供はきっと嫌になっちゃうからです。
交信練習と体験終了後に交信証がゲットできることを伝えます。
交信練習をします。
全体の流れと、体験者が発生する箇所を示しています。
ここで無線局にはコールサインがあり、とても大切な符号であることを教えます。
また会話のはじめと、おわりに「了解」「どうぞ」をいれることも伝えます。
体験者が発声する箇所だけにクローズアップしたページです。
実際に声に出して読んでもらいます。
なまえは和文通話表で言えるように練習してもらいます。
無線機の使い方と話すときのコツを説明します。
半二重通信を知らない子供には新鮮な機械操作です。
マイクに向かってしゃべるときは大きな声を出すように伝えます。子供は声が小さくなる、口とマイクが離れる、傾向にあるのでしっかりとコツを教えます。
それでは体験開始です。
体験交信の実践
<準備物>
- 交信シナリオカード
- 和文通話表
- ホワイトボードマーカー(なまえを書いた和文通話表用)
- 交信相手(タイミング次第でサクラ局)※FMモード推奨
- 体験運用専用QSL(交信後、体験者にサインをもらう)
- 有資格オペレーター以外のサポーター1名
シナリオカードを見せながら交信します
(交信練習の時と同じ内容です)
シナリオカードを複数枚準備
してバインダーで指導します
当初、クリアフォルダに入れてホワイトボード用マーカーでコールサイン部分を書き換えようと目論見ましたが、雨の日は表面が湿って書けませんでした。。。
<体験運用 実施方法>
- 普通にCQを出す*
- 交信相手が見つかったら通常通りのQSOを行う
- 交信体験者の準備が整ったら(オリエンテーションが終了して待機状態になったら)交信相手局に「体験運用」の実施許可を得る。OKであれば体験者に交代 ※具体的には交信シナリオに記載、参照
- シナリオカードと和文通話表(なまえを書いたホワイトボード)を指差ししながら交信をサポートする
交信証手交・qslカード
<準備物>
- アマチュア無線体験証書
- 体験運用用QSLカード
<実施方法>
- 交信後に手交する「アマチュア無線体験証書」を準備しておく
- 交信後、体験者に体験運用用QSLカードへ署名してもらう
- 「アマチュア無線体験証書」を手交。ここで交信体験の感想とその理由を聞いておく
- 最後に忘れ物がないかチェックして 73
体験運用 役割分担
430FMの体験運用を実施した場合の役割分担(メンバー最大参加)
No. | 役割名称 | 作業内容 | 備考 |
1 | 受付 | ・受付票記入、 記入方法説明 ・体験者和文通話表HB記入 ・体験カード記入・手交 ・感想ヒアリング | |
2 | オリエンテーション | ・オリエンテーション、無線実験実演 ・呼び込み手伝い ・アマチュア無線、展示物説明 ・和文通話表指導 | |
3 | 交信オペレーター | ・CQ出す ・交信体験、交信指導 ・ログ記入 | |
4 | 交信サポーター | ・シナリオカードへコールサイン、 名前、時間を記入 ・シナリオカード出し ・QSLカードサイン ・交信相手局探し(サクラ等) | |
5 | サクラ局 | ・交信相手不在時フォロー | 兼任不可 |
6 | 呼び子 | ・呼び込み ・講習会説明、YVV宣伝 ・各種パンフ、記念品渡し ・写真撮影(撮影可否確認) ・アマチュア無線、展示物説明 | |
7 | 全体調整 | ・緊急時、滞留発生時、 休憩ローテなど調整 | 兼任 |
総括/体験運用改善点・今後の課題
2回の体験運用により小学生を中心に合計21名が本物のQSOを無事に体験した。
いくつかの課題、改善点があるものの、①多くの子供たちに興味、関心をもって体験運用を受け入れてもらえたこと、②制度趣旨に沿った体験運用スタイルを確立できたこと、から当初の目的は達成できたといえる。
また多くのクラブ員の参加、交信相手局の理解、関係者の協力が成功の鍵でもあった。
<反省と今後の課題>
1回目:3/25体験運用 2回目:4/1体験運用
区分 | 反省内容 | 改善点・今後の課題 |
1回目から2回目にかけての改善点 | ・参加者情報(年齢、参加理由等)を受付票に追加 ・ログに体験者名を残す ・QSLカードに体験者サインを入れる ・シナリオカードを3枚→1枚にまとめる ・HF帯のSSBは避ける (子供はゴニョゴニョ変調になるので相手局が聞き取れない) | ・遠距離交信(HF)にチャレンジさせたい 例)実例あり HFによる他の体験運用局とのスケジュールQSO |
2回目反省点 | ・連続指導はしんどい ・未就学児はしんどい(兄弟で参加) ・シナリオカードの「VV」を「W」と読む | ・体験運用時間帯を決める ・未就学生向け専用シナリオ ・シナリオフォント見直し |
全体を通じた反省点 | ・体験が終わってからの感想ヒアリング ・写真がどの人がわからなくなる ・お土産を渡せなかった ・交信相手を探すのが大変 | ・感想アンケート ・撮影係、役割分担 ・スケジュールQSO、 体験運用日時、 周波数モードの情報共有 |
※3/25は雨のためイベント自体の参加者が少なかった
※3/25体験運用のうち2交信がどの局と交信相手であったか
分からなくなってしまったため、他の資料の交信数と数が合っていない。
資料 参加者分析
参加者数
実施日 | 3/25 | 4/1 | 計 |
体験運用 | 7 | 14 | 21 |
交信相手 クラブ内・外
交信相手が途切れた時はサクラ局が対応
クラブ員が自宅からサクラ局として支援したケースあり(とても助かる)
東京都でもサクラ局の支援は不可欠
体験運用 年齢構成 (4/1実施)
小学校5年、6年で半数を占める
簡単な漢字記載なら問題ない
体験運用 参加理由 (4/1実施)
「面白そう」「子供がやりたい」で9割以上を占める
選択肢
※受付時に親御さん
もしくは本人が記入
1.子供が電子工作に興味がある
2.子供がやりたいと言ったから
3.呼び込みの人に誘われたから
4.興味があったので
5.面白そうだから
6.その他
資料 会場づくり
雨の中のテント設営寒さ、雨対策で周囲にビニールを巻いた
体験運用に備え、雨に濡れたビニールシート、テントの乾燥作業
(影の努力、お疲れ様です)
JARLの公式ビデオ再生(Youtube)、JARLから送付してもらった各種パンフレット、講習会案内、CQ誌など
のぼり旗、移動運用のアンテナ、手作り看板、地元八王子市の竹を使ったお土産などで会場づくり。魅力的な会場づくりのブラシュアップは今後の課題・・・
体験運用
オリエンテーションでコールサインの読み上げ練習
資料 体験運用制度
ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正について①
総務省総合通信基盤局電波部移動通信課 より引用
https://www.jarl.org/Japanese/2_Joho/News2023/seidokaisei1.pdf
資料 八王子友好賞規約見直し
八王子市AMCでは「体験運用」を応援し、当クラブが行っている「八王子市友好賞規約」に体験運用局との交信ポイントを2倍とする規約見直しを、下記の通り行います。
<規約追加見直し部分>
1.ルール
(キ) 2023年3月22日に電波法施行規則等の一部を改正の「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正」による体験運用局との交信は、ポイントを2倍にします。なお、交信は2023年3月22日から有効です。
体験運用局との交信は、「体験運用者/ハンドル名」と明記してください。ハンドル名が異なれば、日付・バンド・モードが同じでも、別々に計上できます。音声による交信(FM、SSB、AM)が有効です。
7.その他
(カ)記入例、ポイントの加算について
④ 体験運用局
JJ1YVV/1 八王子移動/体験運用者/シン430MHz FM(20ポイント) ※1
JJ1YVV/1 八王子移動/体験運用者/ヒロ430MHz FM(20ポイント)
JJ1YVV/1 八王子移動/体験運用者/ヒロ430MHz SSB(20ポイント)
7L3NOO メンバー局/体験運用者/ナオ430MHz FM(10ポイント)
7L3NOO メンバー局/体験運用者/マリ430MHz FM(10ポイント)
JA8QRP/1 八王子市居住/体験運用者/シンジ 7MHz SSB(2ポイント)
それぞれのポイントを加算して 82ポイント
体験運用の局との交信は、ポイントが2倍になります
体験運用での交信では、コールサインに体験運用者のハンドル名でコールサインに相当します。
※1では、「JJ1YVVシン」がコールサインとして考えます。ハンドル名は同じものが使われることもあり、日付が異なれば、重複としません。
改正日 2023年4月8日
※ただし交信は2023年3月22日より有効
その他
JARLへの期待
次世代のアマチュア無線人材、その先のワイヤレス人材の輩出には、青少年に対するアマチュア無線局の体験運用が、アマチュア無線を楽しみながら行う教育環境の一つとして、定着させていくことが欠かせません。
この教育環境の定着は、多くのアマチュア無線局が今般の制度改正に注目しているこのタイミングを逃さず、醸成していくことが大切です。
青少年に対するアマチュア無線体験運用の活動の中心は各クラブ団体や有志が担うこととなる一方で、アマチュア無線を代表する唯一の団体であるJARLはその活動を支援し、その両輪が働くことで、制度趣旨に沿った体験運用の早期定着化が図れると考えます。
- 体験運用制度の趣旨に沿った円滑な運用体験の仕掛けづくり
- 早期に各団体の体験運用の集合知を共有する仕組みの実現
- 全てのアマチュア無線局への体験運用制度の積極的啓発
資料ダウンロード
JI1NQG 桑原さんが作成された総括資料のオリジナルのPDF版(本ページの元資料)はここからダウンロードしていただけます。
※編集可能なパワーポイント版もご用意していますので、必要な方はこちらからお気軽にご連絡いただき、是非ご活用ください!
(パワーポイント版ではシナリオカードや受付票、交信証のOfficeデータファイルも含まれています)